新緑ノスタルジア

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「俺たちが常勝立海」という宣言―「テニプリ BEST FESTA!! 王者立海大 REVENGE」配信感想

※以下、ステージ上の演者さんはキャラとして表記します

他にも色々書きたい記事はあるのだが大学だとか親が骨折して身の回りの手伝いをしないといけなくなったりだとか、忙しさにかまけて何カ月も放置してしまった。なんとか書く習慣を取り戻していきたいなと思う。
そんなわけで復帰一発目はベスフェス立海の感想です。新テニが立海の再出発、幸村の物語が「もう一つのテニプリ」である以上、推しとは公言していないんですが注目する機会が多くてどうしてもこれは見ておかないとなと思って、配信を観た次第です。

 

「王者立海大」をタイトルに冠する意味

今回のライブは関東青学vs立海編の各シーンの生アフレコを縦軸に据え、そのストーリー進行に沿って歌唱する曲が選ばれたという。*1しかし、選ばれる曲は無印アニメ制作・放送期間にリリースされた楽曲・無印の名試合をベースに新たに製作されたOVABEST GAMES!!」テーマソングなど様々な年代から選ばれており、物語のみならずテニプリのアニメそのものの20年の歴史をアーカイブしていくようなセットリストとなっていた。

この記事を読んでいる人ならテニプリの物語の流れはすでにご存じだと思うので詳細は省くが、関東青学vs立海まで、立海は闘病中の幸村を欠いたまま無敗での全国三連覇を目指し駆け上がってきた。まさに常勝の王者である。ここに、「王者立海大」を冠した一つの理由があると思う。

しかし、理由はそれだけではないと考える。セットリスト全体を見ると、トークコーナーで玉川登場→「I LOB YOU」、レギュラー全員集合の「SUMMER HIGH」ブロック、切原VS不二戦後のアフレコ後の「驟雨」「ディープグリーンエバーグリーン」ブロックだけ少し毛色が違うことに気が付かないだろうか。リーディングで語られる本編の部分から少し外れた要素を歌うこれらの楽曲を立て続けに歌うこの部分は、「新」を含めた物語の時系列上最新に位置する「氷帝VS立海」をも経た立海、さらに言うならば「今」の立海を表しているパートだと考えている。関東大会・全国大会での敗北を経て再出発し、合宿・ワールドカップとさらに広い世界に触れて新しい「王者」としての道を歩く「王者立海大」の姿だと言える。

この二つの「王者」の姿を見せたことが、今の立場の立海にふさわしい内容だったのではないかと考えているのだ。


各パート感想

当日のセットリストは公式Twitterで公開されているのでここでもシェアしておく。

 

試合前のシーンのリーディングの後、「たとえ草試合であっても負けは認められない」常勝の精神と、幸村不在の中彼の思いも背負って戦おうとする真田の覚悟を歌う「No Surrender」、その裏で一人、病気と自分自身の心との戦いに挑んでいる幸村の「宣告」が続き、同じ時系列の中で複数の語り手が立ち上がることで、物語が一回り、二回りと厚みを増していく。

続いてダブルス2。ブン太の「だろい?」、ジャッカルの「GARURU!!!」とステージジェニックな曲が続き、先ほどまでの深刻な空気が嘘のように盛り上がる一方、ボレーと防御の徹底した戦術の分離も曲調の対比で表現されたように感じた。(余談だがこの2曲はテニラビの譜面も正反対の様式で面白い)

そして、立海キャストの皆さんの自己紹介を挟んでリョーマの「Still」。ここで「戦うべきライバル」としてテニプリの主人公・越前リョーマが登場することには、あくまで「今日の主役は立海」という意思と、彼らがコート上で勝負する意味が現れていると感じた。

ダブルス1。アフレコパートの「意外とノリノリじゃったぞ」「仁王~~くん!」の所にこの二人の関係がよく出てるなと思ってニンマリ。ここで仁王の「P気持」。「P」は「ペテン」でもあるし「Play」でもあるけれど、何より「Pleasure」でもあるし「Passion」でもあるのが、普段の飄々とした仁王の態度からにじみ出る全力で勝ちに挑む姿勢を感じられて、ここで歌うにもふさわしい曲だと思ったし、個人的に仁王のキャラソンのうちかなり好きなものでもあるので嬉しくなった。プピーナ。

続いてヤング漢の「業火絢爛」。前々から良い曲だと思っていたがこの関東立海戦編の文脈に入れ込まれたことによって、言葉の覚悟がこちらに向かってより一層飛び込んでくると感じた。「馴れ合いじゃなく/独りでもなくて/厳しさを共有することを方法論としてきた」が好き。

トークを挟んで、玉川の「I LOB YOU」とヤング漢の「SUMMER HIGH」。「I LOB YOU」はエースは切原に託しつつ部長として次世代の立海をまとめ上げるという約束の歌、切原へ歌われている歌と言っても過言ではないだろう。「SUMMER HIGH」はレギュラーが全員集合して思い思いの形で夏を楽しんでいた。テニプリというコンテンツ全体を通しての所感で、よく「まだ中学生」というワードが使われるが、その「まだ中学生」というワードを存分に表現している気がした。この舞台の主役は間違いなく、中学生という限りある時間を全力で駆け抜ける彼らなのだ。

しかしその空気も、シングルスに挑む生アフレコで一変する。柳の「Master Plan」、切原の「赤く染める月」とアグレッシブな展開が続き、ここまでの勝利を上回る勝利を幻視する。無論私たちは先の展開がどうなるかは知っているが、どうか勝ってくれ、負けないでくれ、と願ってしまうのだ。

そして満を持して「DISPECT」。草試合でのリョーマ戦以降、越前リョーマのライバル代表として立ちふさがり、「王者」の立海の中で最初から挑戦者としての闘志をむき出しにする切原、そんな彼との試合を通して「勝つことへのこだわり」に目覚め始める不二、両者の試合を見守りながら、次の展望を予見するリョーマ。そんな彼らの三者三様の歌声が絡み合い、イヤホンで音源を聴く以上、こちらの想像以上のパワーで畳みかけてきた。事前に二人のゲスト参加は告知されていたものの、この気迫ある登場には会場で声を出さなかったオタクたちも全力で称えたいと思った。私なら太もも~膝を叩いてアザ作りまくってるので。

関東大会が幕を閉じ、立海は準優勝に終わった。しかし「挑戦者」として全国大会に向き合う覚悟、幸村の手術の成功が次の展望を予見させる。

ここで幸村の「驟雨」である。厳しく荒れた雨風と、雨が上がった後の晴れた空が与える恵みを知っている彼はどこまでも進んでいけるのだ。「どんなことがあっても明日だけは必ず来る」というのは、今の私たちの現状に対するメッセージにも聞こえた。

本編ラストは「ディープグリーンエバーグリーン」。中学生=青春の終わりの匂いも感じさせるこの曲がラストなのには割としっかりめに泣いてしまった。なまじコンテンツが長続きしているぶん彼らの青春は永遠に続くと思ってしまうが、彼らは着実に時間の流れの中に生きているのだ。彼らがいつかこの時を思い出して笑ったり泣いたりできるといいな、この時の情熱と衝動を大人になっても忘れないでいますように、と密やかに祈った。

アンコールはもはやお決まりの「LASER BEAM」と、トークを挟んで締めくくりにふさわしい「ベスフェス~Are We Cool?~」。これまでの文脈関係なく盛り上がれるアンコールは楽しいけれど、ここで歓声や合いの手が出せない現地勢の歯がゆさも感じてしまった。LASER BEAMで合いの手が入れられないのは軽い拷問レベル。


テニプリがキャラソンを生み出し続ける意味

キャラソンそのものの物語と、その背骨となっている本編の物語を同時に味わうことによって、いくつかあるテニプリというコンテンツにおけるキャラソンの立ち位置のうち一つが明確になったライブでもあった。それは、「原作のエピソードをキャラクター個別の視座で再解釈」する立ち位置である。

テニプリに限らず、どのような作品でも本編の物語の進行はいわゆる「神の視点」ともいえるような、第三者が俯瞰する形で描かれることが大半である。今回のライブで軸となっている関東青学vs立海編では幸村不在で進む試合中心に描かれ、幸村の描写は本人の視点より真田など周辺の人々から見たものが多くなっている。

しかし、先ほどの繰り返しにはなるが「宣告」であれば、強くなりたい、もっと前に進みたい思いとは裏腹にうまくいかない現実に対する葛藤と迷いが幸村本人の視点で歌われる。一方で、「No Surrender」はそんな幸村の思いすら背負って戦う真田の覚悟そのものである。*2

同じ時点のことであっても様々なキャラの異なる視点・文脈が重なり合うことで、物語全体が縦横に広がり、作中世界全体がさらに深まるのだ。

ただ本編の展開と同期したキャラソンが生まれるだけではなく、その作中世界に生きている血の通った人間としての感情が滲み出ているのが、テニプリのキャラソンが持つ大きな魅力だと再確認できた。

原作・アニメ本編のストーリーをなぞるライブが物語をさらに補強する、という特徴はオーソドックスでありながらもとてもユニークなので、今後キャラソンの型を守りながらどのように既存の様式を飛び越えていくのか、に個人的に注目している。*3

*1:増田裕生さんのツイキャスでもこのことが述べられている

*2:そう考えると、本当は「for Yourself」とか「黒色のオーラ」とか聴きたかったけどそのタイミングは今じゃない、という視点も生まれてくる。この二曲は新テニの同士討ちのことを歌っているのでこのセトリに入れ込もうとすると色々と歪みが生じてくるのだ

*3:そういう意味で、映画リョーマでどんな曲が出てくるのかに期待しています